モッタイナイキッチン

おいしいセリは購入先の努力とともに  三浦隆弘さん

おいしいセリは購入先の努力とともに 
三浦隆弘さん

三浦隆弘さん

豊かな地下水源が育てるセリ

厳冬の中、胴長を身に着け、水を張った田に分け入る三浦さん。凍えてしまうのでは?とつい心配になりますが「実は外よりも田んぼの中の方が温かいんですよ」と笑います。今回は名取市下余田地区で仙台セリを生産する三浦隆弘さんにお話をうかがいました。

このエリア一帯では400年前から、セリづくりが盛んでした。ご存知のとおりセリの生育にはきれいな水が不可欠。名取川から得られる地下水源に富んだこの土地はうってつけでした。地下水の温度は年間を通じ13~15℃程度。そのため夏の暑い時期はセリを冷やし、冬は凍らない温度をキープする役割を果たしてくれるといいます。

実は「仙台セリ」という特別な品種があるわけではありません。周囲のセリ農家は昔からみな、自家採種で作り継いでいるため、その品種は農家ごとに異なるのだそう。「だからセリって結構味に差があると思いませんか?今は生産者の顔が見える形で販売されることが多いから、“誰々さんのセリが好み”って選んでもらうのも楽しいですよね」。

根も葉も食べないと「モッタイナイ」

セリといえば、根のついたセリをダシを張った鍋に放つ「セリ鍋」。今やすっかり冬の仙台名物となりました。しかし振り返ればここ10年ほどで浸透した新しい食し方です。実はその影に三浦さんの存在がありました。「命あるものをまるごといただく『一物全体』という言葉があります。従来茎を食べるセリの根や葉は捨てる部分でしたが、実はすべての部分がおいしく食べられる。そのことをもっと広めたいと思い、居酒屋「いな穂」のご主人に相談して作ってもらったのがセリ鍋だったんです」。ちなみに鍋以外におすすめの食し方をうかがうと、意外な答えが返ってきました。「パスタと相性がいいんです。炒めるときクレソンみたいにパッと放ってね。あとは炒めものやおひたしもおいしい。ぜひ試して欲しいです」。

セリの根は化成肥料である石灰窒素を使用することで栄養バランスが崩れエグみを持つ。だから「根まで食せるセリ」は、有機栽培鮮度と安心の証しでもあるのです。「そもそも私が農薬や化成肥料を不使用なのは、田の生態系を豊かにしたいから。栄養の偏った環境ではそれに適応できる生き物しか生き残れない。でも本来の自然はピラミッドではなく、捕食者や分解者、なにもしない者まで多様な生き物が生息している曼荼羅(まんだら)なんです」と三浦さん。その言葉を裏付けるように、ここのセリ田には、絶滅危惧種のシマゲンゴロウやウキゴケ、カエルなどが生息しているそう。本来の里山の姿がそこにはありました。

生産者と購入先がともに支える「名声」

根を食す「根ゼリ」の収穫期は8月下旬から翌年3月あたりまで。その後は葉を食す「葉ゼリ」にバトンタッチし、収穫は5月まで続きます。その後種を取り、次の収穫に向けた苗作り。こうしてセリは1年中作業が発生する、忙しい作物です。「おばあちゃんと嫁さんと3人で1年中てんてこまいです」と三浦さん。すぐ近くでは三浦さんの奥さんとお母さんが、収穫したセリの選別をしていました。

選別では葉が黄色かったり、傷んでいたりするものを手作業でていねいに弾いていきます。そうして残るのは4割程度。なんだかもったいない気がしますが「弾いたものは肥料にしたり、飼っているヤギやウサギの餌になります。彼らの糞も肥料になるんですよ」と三浦さん。ここでは小さな循環型農業が営まれていました。

三浦さんが販売するのは主に飲食店と、飲食店をお客さんに持つ青果店。一部の例外をのぞき、仙台の店舗に限っています。「仙台名物が全国どこでも食べられるというのはちょっと違う。『おいしいセリが食べたいなら、仙台においで』という気持ちなんです」。

根を食す根ゼリは、その洗浄がキモ。いくらおいしくても、口にした時ジャリッとするのでは台無しです。だから「うちでも簡単に洗いますが、仕上げは購入先におまかせすることになる。だから、しっかり洗って提供してくれるという信頼のおけるところにしか販売できないんです」。仙台セリの“名声”は、作り手だけでなく、購入先の努力と噛み合ってこそ。そこに仙台の美味を支える人たちの誇りと熱意が垣間見えました。