モッタイナイキッチン

新たな宮城の特産品を  浜松彰宏さん

新たな宮城の特産品を 
浜松彰宏さん

浜松彰宏さん

その存在を知らないのはモッタイナイ

目下空前の「サツマイモブーム」。スーパーではさまざまな品種のサツマイモが並び、首都圏では品種の違いを楽しめる「焼きいも専門店」まで登場しています。そうした中、宮城県にもついにご当地サツマイモが登場しました。今回は新名産品「仙台金時」の“父”である、浜松彰宏さんを訪ねました。

現在名取市北釜地区で仙台金時の作付けをしている浜松さんですが、実はもともと徳島県でご料理屋を営んでおり、農業とはまったく縁がなかったといいます。しかし震災支援で宮城を訪れている最中「ちょっとした遊びで」、地元から持ち帰ったサツマイモ品種「なると金時」の苗を植えてみたところ、思った以上の収穫が得られ、その体験から「サツマイモによる町おこし」を思いついたといいます。

「もともと南の作物ですが、現在は温暖化でだんだんと北も暖かくなってきている。またサツマイモは塩害にも大変強い。これなら被災地でも、無理なく育てられるのではないかと思ったんです」。浜松さんは仙台で飲食店勤務をする傍ら仲間を募り、なると金時を苗に用いた「仙台金時」の栽培をスタートさせました。

サツマイモは塩分の強い砂地が大好き。海が近い名取市増田の畑は、その条件を満たす格好の環境でした。現在生産者の輪は登米、石巻、鹿島台、丸森、荒浜へと広がり「宮城県自慢のブランド」として各地で育成に尽力しているといいます。

高値で取引きされた、2018年末の市場デビュー

とはいえ、農作物として出荷するのに採算をとるまでには、やはり試行錯誤があります。「形も味も商品としてグレードを満たすものができるようになるまで最低5年はかかる」と浜松さん。自身が昨年末に卸売市場へ出荷するまでには、実に7年の月日をかけました。しかしその甲斐あって、市場での取引きは平均よりやや高値の「5kg当たり1300円」という満足のいく値で終えることができました。

実は仙台金時は1代限りのF1品種。そのため作付けの際は、毎年徳島から苗を購入する必要があります。「採れた芋をそのまま種芋にすると、十分な糖度が得られずまずい芋になってしまう。でも徳島から苗を取り寄せると、どうしても輸送量がかかってしまいますよね。いざ“作りたい”という農家にとって、その価格がハードルとなるのが悩みでした」(浜松さん)。その問題を解消すべく、現在は宮城農業高校の協力の下「宮城県内で苗を作る」取組みをスタートさせました。今はまだ全体のごく一部にとどまっていますが、ゆくゆくはすべての苗を宮城県産にできればと考えています。

生産者の裾野をもっともっと広げたい

仙台金時の魅力は繊維質のほとんど感じられないなめらかな舌触りと高い糖度。その中に芋らしいほっくりとした口当たりも感じさせ、芋好きにはたまらない味わいです。蒸かしても焼いてももちろん美味しいですが、浜松さんのお気に入りは「芋がゆ」だそう。「煮溶けた芋の甘さがおかゆに溶け込んで、いくらでも食べられるんですよ」と笑顔を見せます。

現在は「芋けんぴ」などの加工品を製造するパートナーを探しつつ、「宮城といえば仙台金時」というブランド構築を目指しているという浜松さん。実はひそかに温めているアイデアがあります。「近い将来、長さ数センチの小さいサツマイモの出荷を考えています。今って大きな芋が主流でしょう?でも以前、お年を召した方が小さい芋を手に取って“私、この大きさで十分なの”とおっしゃって。大きいサツマイモ1本、実は食べきれない方も多いのでは?とそのとき気づいたんですよ。芋が小さければ、糖も凝縮されてぐっと甘くなりますしね」。また仙台金時をもっと身近に感じてもらうことを目指し、春からは家庭菜園向けの苗販売もスタートします。一般には苗がまだまだ入手しづらいため、自身がその窓口となろうという狙いです。

その未来にさまざまなアイデアが膨らむ仙台金時。今後の行く末が楽しみな、新特産品の誕生です。