プラスチック

花王グループカスタマーマーケティング株式会社 社会コミュニケーション部門 KLP推進部 部長 松田 紀子さん

22022.02.09

洗剤をはじめとする家の中のお手入れ品やボディ・ヘアケア製品など、我が家のどこかで手を伸ばせばすぐそばにある、私たちにとってとても身近な花王の商品。その多くが、プラスチック製の容器を使用しています。

プラスチックの過度な使用による地球環境への影響が懸念される今、花王は環境に負荷をかけないものづくりを目指し、明確な方針のもとでプラスチックに関するさまざまな取り組みを進めています。

そこで今回は、花王グループカスタマーマーケティングの松田さんにオンラインでお話を聞き、花王が実践するプラスチックの使用量削減や資源循環に関する取り組みについて教えていただきました。

花王グループカスタマーマーケティング株式会社 
社会コミュニケーション部門 KLP推進部 部長 松田 紀子さん

——花王さんはプラスチックの使用量削減や資源循環について、どんな方針を掲げていますか?

松田さん

「私たちは2019年にESG(環境・社会・ガバナンス)戦略『Kirei Lifestyle Plan』を発表しました。生活者の皆様が、自分らしく、清潔でこころ豊かな生活を送っていただくことを『Kirei Lifestyle』と定義しておりまして、その中で、生活者の皆様が自分のために選んだ商品が、社会や環境にとってもよい選択となるようなものづくりを進めています。

プラスチックは社会的に大きな課題となっていますが、弊社の商品の多くもプラスチックを包装容器として使っています。プラスチックは花王の製品を衛生的で安全にお届けするためには欠かせないものですが、ただその使用量は地球が許容する範囲にとどめていかなければならないと考えています。また自然界に排出されるべきではないということで、小さなかけらまで再利用やリサイクルされるべき、さらに自然界にすでに出てしまったプラスチックも、すべて回収して再生させるべきであると考えています。

そうした考えを実現するために発表したのが『私たちのプラスチック包装容器宣言』です。この中で、花王は画期的なイノベーションを起こすような取り組みを4つのRの視点から推進していくことをお伝えしています。」

——4つのRの具体的な取り組みについて教えていただけますか?

松田さん

「1つめのRはReduce(減らす)です。これは過去から取り組んできたことですが、つめかえ・つけかえ化を推進しています。使い終わった本体容器に詰め替えるという習慣を日本に定着させたことで、本体を買い替える場合と比較してプラスチック量を大幅に削減できたと思っています。

つめかえはボトルに中身がうまく入らない時があるなどちょっと面倒な部分がありますよね。そうしたことを解消するために、花王ではつめかえやすくて液残量がほとんど残らない『ラクラクecoパック』というつめかえパックを提供しています。またこの『ラクラクecoパック』をそのままセットできるつけかえ容器の『スマートホルダー®』や、つめかえパックをつりさげて使える『らくらくスイッチ』など、つめかえを本体のように使う提案によって、より無理なく便利にプラスチック使用量を削減できる開発を進めています。」

つめかえ用「ラクラクecoパック」

▲リニューアルしたスティック

つりさげ型の「らくらくスイッチ」

そして今は、つめかえのような薄いフィルム状のプラスチックの周りに空気を入れて自立させることで本体ボトルとして使用する『エアインフィルムボトル』を開発し、アメリカで販売しています。この容器ですと、通常のポンプ型ボトルと比較してプラスチックの使用量が約50%削減できます。」

エアインフィルムボトルを採用した商品は現在アメリカで販売中。日本でも同ボトルの導入が検討されています

2つめのRはReuse(再利用)で、先ほど申し上げたつめかえ・つけかえ化の使用により本体を繰り返し使っていただけることも本体の再利用になると思います。

また今後の販売方式の可能性を探るために、首都圏のドラッグストア様2店舗で、生活者の皆様に容器を持ち込んでいただき、店頭で中身の商品を量り売りする実証実験も行っています。」

――エアインフィルムボトルの構造ははじめて見るもので、大変驚きました。つめかえやつけかえ化の推進は、利便性が一層向上して「つめかえずに使える」まで進化しているところも、生活者の暮らしに寄り添った考えだからこそ成立した商品であることが分かります。では、3つめのRは?

松田さん

「化石燃料由来のプラスチックから他の素材のプラスチックなどに置き換える(Replace)取り組みです。グローバル全体のデータになりますが、花王グループが2020年度に使用した再生プラスチックの量は427トンで、2019年度に比べて1.3倍に増えました。植物性プラスチックは519トンで、1.1倍です。商品別にみると、国内では2021年4月から『アタックZERO』『キュキュットClear泡スプレー』の容器を、再生プラスチックに置き換えています。

そして4つめのRがRecycle(リサイクル)です。花王では、一度使い終えたつめかえパックに技術や知恵、アイデアを加えることで新たな価値を創り出す『リサイクリエーション』という活動を行っています。宮城県では2017年から石巻市・女川町の皆様、NPOや商工会・観光協会様と協力して、学校・公共施設などに回収ボックスを設置して使用済つめかえパックを回収し、回収した枚数に応じて寄付や地域通貨として還元するという取り組みを行っています。」

石巻市のリサイクリエーション活動の様子

——石巻市・女川町のリサイクリエーション活動は現在も行われていますか?

松田さん

「はい、現在も皆様と一緒に活動を継続しています。皆様には使い終わったら回収箱に持ってきていただくというちょっと面倒なことをお願いしていますので、捨てずに回収することにより価値のあるものにリサイクルされることを実感していただきたいという思いで、再生ブロックなどにリサイクルしています。この再生ブロックで、たとえばベンチやオブジェを作ったりして、プラスチックのリサイクルが新しい価値を生み出すことを体感していただく取り組みにしたいと考えています。」

——4つのRの視点を通して、地域的な活動からグローバルな展開まで、幅広く取り組みを進めていらっしゃることがよく分かりました。

松田さん

「ありがとうございます。これまでは、4つのRの中でもReduceに注力してきました。特につめかえに関しては、生活者の皆様のご協力のおかげで商品の普及率が8割となりました。」

——包装容器以外でもプラスチックの使用を減らす取り組みはありますか?

松田さん

「たとえば商品に付いているアイキャッチシールは、商品の良いところを伝える重要なツールなのですが、商品を買った後はごみにしかならないということで、2021年にプラスチック製アイキャッチシールを添付した商品の生産を全て終了しました。誤購入や誤使用を防ぐためにどうしても必要な場合は、FSC®認証紙に置き換えています。また、お伝えしたい情報はボトル容器への表記などでしっかり伝えていく工夫をしています。

アイキャッチシールを廃止し、商品のラベルに必要な情報を盛り込みました

また店舗様に置いているヘアカラーの毛束見本がついたプラスチック製トレーも、商品入れ替え後はごみになってしまうということで、2021年から順次廃止しています。代わりに、AR*による髪色シミュレーションが試せるツールをリリースしました。」

*Augmented Relityの略。拡張現実。現実世界の映像に、様々な情報を重ね合わせて表示する技術。

毛束見本がついたトレーを順次廃止して、QRコードにスマートフォンをかざすと、
簡単に髪色シミュレーションができるツールを展開しています

——『ラクラクecoパック』なども使う側の利便性が追求されていましたが、毛束見本の取り組みなども生活者の方が楽しみながら商品を選べるよう配慮されていますね。

松田さん

「ありがとうございます。やはりサステナブルな生活をするために無理をしたり面倒だなあと思いながらやっていたりすると、それはなかなか続かないと思っていますので、便利で楽しく続けられる取り組みにしたいと考えています。」

——今後、プラスチック使用量削減に関してどのような取り組みをされますか?

松田さん

「これまでお話した取り組みを継続しながら、資源循環の仕組みも確立させていきたいと考えています。現在、神戸市が主体となって弊社を含む日用品メーカー、小売業者様、リサイクル事業者様など16企業が参加し、使い終わったつめかえ容器を回収して再びフィルムのつめかえ容器にリサイクルし、その容器を使用した商品を神戸市で販売する、という取り組みを進めています。」

——資源循環が実現したら、プラスチックの使用量削減に大きなインパクトを与えますね。それにさまざまな立場の方が手を取り合って協力している取り組みであることもポイントだと感じます。

松田さん

「プラスチック問題を解決するには、私たち花王だけでできることはとても小さくて、神戸市での事例のように、生活者の皆様や行政、小売業者様やリサイクル業者様などさまざまなステークホルダーと力を合わせて取り組んでいきたいと考えています。

そこで生活者の皆様にお願いしたいのが、商品を購入する際は、弊社のものだけでなく環境に配慮した商品を選ぶ意識を持っていただきたいということです。一緒になってプラスチックの削減に取り組めば、個々の取り組みは小さいことかもしれないですけれど、きっと大きな削減につながっていくと信じています。宮城県のきれいな海を守るために、ぜひ私たちと一緒に取り組んでいただければと思います。」