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芸術的なコース料理に込めたメッセージ~サステイナブルなフレンチレストランへようこそ

『日本サステイナブル・レストラン協会』東北第1号加盟店のフレンチレストラン

JR仙台駅から徒歩約3分。ひっそりとした階段を地下に降り重厚な扉を開くと、中央に大きなカウンターを配した洗練された店内が現れます。ここは、1日5組限定でゲストをもてなすフレンチレストラン『Graal(グラール)』。ミシュラン一つ星レストランシェフ ドミニク・コルビ氏の片腕として研鑽を積んだシェフ菅原譲さんと、ミシュラン一つ星レストラン『nacrée(ナクレ)』でトップソムリエを務めた佐藤達矢さんによる、おまかせコース料理と極上ワインが楽しめるお店です。

プロフェッショナルな二人がプロデュースする料理とワインにとても興味をそそられますが、実は『Graal』の特徴はそれだけではありません。『Graal』は、持続可能な未来のためにレストランとして行動する『日本サステイナブル・レストラン協会』の東北第1号加盟店。ゲストに提供される料理の一皿ごとに、おいしさ、美しさ、そして使用する食材を無駄にしないサステイナブルな精神が宿っているのです。

『Graal』には地元宮城からはもちろん、サステイナビリティに対する意識の高い海外ゲストも多く来店します。

野菜の皮も、肉や魚の骨も、料理を高めるために欠かせない存在です

取材に協力してくれた、シェフの菅原譲さん。
幼少の頃の経験が、現在のレストランのスタイルに大きな影響を与えたといいます。

「料理を作る時は、できるだけフードロスを出さないようにしています。野菜の皮や軸は乾燥させてパウダーにしたり、肉や魚の骨はだしを取るのに使ったりしています」と、シェフの菅原譲さん。

料理に使用するホワイトアスパラガス(左)と、乾燥中のホワイトアスパラガスの皮(中)、
乾燥後にパウダー状にしたもの(右)

取材にうかがった日は、旬のホワイトアスパラガスを料理に使っていました。むいた皮は廃棄せずに乾燥させ、ミキサーでパウダー状にし、ホワイトアスパラガスを使った料理の装飾に使用します。しかも乾燥の工程は自然乾燥で、オーブンなどの電力も使用していません。

コース料理の一例「ホワイトアスパラのバターソテー デコポンの香りと。」「ホワイトアスパラのクレームブリュレ」。
皿の上を飾る白いパウダーが、皮を乾燥させたものです。

さらに肉や魚の骨は、フランス料理の根幹を担うだしを取るために使用。料理の味わいに厚みや奥行きをもたらす大切な役割を果たしています。

他にも菅原さんは、フレンチのトレンドのひとつとして注目を集める発酵の手法なども活用し、食材の表情をさまざまに変化させながら無駄なくおいしい料理にしています。

昔、当たり前に日本にあった食の営みを現代のフレンチに還元する

東北ではまだまだ希少といえるサステイナブルなレストラン。菅原さんは、なぜそのスタイルに向かったのでしょうか。

「フランス料理の考え方として、もともと料理に使う食材の他の部分でだしを取るなど“捨てない文化”がありました。飲食店の厨房では、昔は使わない食材を廃棄していましたが、自分の中ではそれは違うなって思っていましたし、海外ではサステイナビリティを意識して取り組むレストランも多い。日本でも、サステイナビリティはこれから必然とされるものだと思います」と菅原さん。

さらに、こうした考えにいたるベースとなったのが、菅原さんが幼少の頃に経験した祖父や祖母のサステイナブルな暮らしぶりだったといいます。

「祖父と祖母の家には、自家製のものが何でもありました。味噌や醤油などの調味料、梅干しなどの保存食も多くが手作り。自分はそれを一緒に作っていたわけではないけれど、近くでずっと見てきました。大人になって料理に携わるようになってから、その時見聞きしたこととリンクすることがとても多かったんです。」(菅原さん)

味噌や醤油で使うのは大豆、じゃあフランス料理でよく使う白いんげんやレンズ豆を発酵させてみたら?漬物のように、フランス料理でよく使う食材を塩漬けしてみたら?菅原さんが幼い頃に当たり前にあった風景がいま、サステイナブルな知恵として料理の創作に一役買っています。

日本とフランス、昔と今。菅原さんは文化や時間の垣根を縦横無尽に貫いて、今日もサステイナビリティを軸にした独創的なコース料理を創りあげています。