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ベガルタ仙台が取組む「ケミ・リサSENDAI」~スタジアムから始まる循環型社会

ベガルタ仙台のケミカルリサイクルプロジェクト「ケミ・リサSENDAI」とは

 「ユアテックスタジアム仙台を日本一きれいなスタジアムに!」の趣旨のもと実施されている、プロサッカークラブ・ベガルタ仙台の「エコプロジェクト」。クラブやボランティア、企業、自治体そしてサポーターなどが一体となり、スタジアムから発生するごみの削減や資源節約を目指してさまざまな活動に取組んでいます。

 そんななか、2025年6月から新たな取組として「ケミ・リサSENDAI」がスタートしました!「ケミ・リサSENDAI」は、ベガルタ仙台が中心となり、仙台市や民間企業などと連携して進めているケミカルリサイクル推進プロジェクトです。

 その内容は、スタジアムグルメなどで使用されたプラスチック容器を分別回収し、ケミカルリサイクルの技術を用いてプラスチックに戻し、再利用するというもの。日本のプロスポーツイベントで初となるこの注目の取組について、ベガルタ仙台の福田一臣さんにお話をお聞きしました。

ベガルタ仙台 パートナーコミュニケ-ション部 ロ-カルゼブラ推進課長 福田一臣さん

「ケミ・リサSENDAI」誕生の背景とベガルタ仙台が果たす役割

 6月22日(日)、ユアテックスタジアム仙台で開催されたヴァンフォーレ甲府戦からスタートした「ケミ・リサSENDAI」。その誕生の経緯について、福田さんはこう話します。

福田さん

 「Jリーグが開幕して31年、おかげさまでスタジアムには日々多くのお客様にお越しいただいております。“人がたくさん来たから、ごみもたくさん出ました”ではなく、人がきてもごみを出さないスタジアムって素敵だし、我々がハブとなり『ケミ・リサSENDAI』を実証していくことでサッカーはもちろん野球やバスケットボールなど他のスポーツにも横展開でき、スポーツ業界全体にこの取組を広めていきたいと思い事業をスタートさせました。」

 気候変動が進むなか、「ケミ・リサSENDAI」のように環境を守るアクションはクラブとして非常に優先度が高い、と考えている福田さん。ベガルタ仙台発信によってサポーターを含む多くの人の環境に対する意識変容を促すだけでなく、循環型社会のモデルケースになること、企業・自治体・市民協働の場になることなど、社会全体に影響する多面的な意義があると期待されています。

「ケミ・リサSENDAI」の要、ケミカルリサイクルとは

 廃プラスチックをリサイクルする方法は、主に3種類に分けられます。最も比率が高いのがサーマルリサイクル。廃棄物を焼却した際に出る熱エネルギーを回収して利用する方法です。ほかに、廃棄物を溶かして再形成し利用するマテリアルリサイクル、そして廃棄物を化学的に分解して原料に戻し再利用するケミカルリサイクルがあります。

 ベガルタ仙台の「ケミ・リサSENDAI」では、プラスチックの中でも特にポリスチレンという種類に特化してケミカルリサイクルを行っています。

 ポリスチレンには、高温にさらされると分解し、モノマーと呼ばれる小さな分子に戻りやすい特性があります。この特性を利用して効率的にモノマー化し、不要な成分を取り除く精製工程を経てもう一度ポリスチレンを作ることができるのです。その純度は99%以上で、食品用の容器にも安全に使用できる品質の高いものです。

ポリスチレンは熱分解すると原料のスチレンモノマーに完全に戻せることから、資源循環に適した素材といわれています。

 「ケミ・リサSENDAI」では、スタジアムグルメで提供するポリスチレン容器を効率的に回収できるよう、回収ステーションにポリスチレン専用の回収ボックスを設置しています。回収した使用済容器はスタジアム内に常設された減容機を用いて即座に減容され、千葉県のケミカルリサイクルプラントで処理して再びポリスチレンに生まれ変わらせています。

ベガルタ仙台は、ユアテックスタジアム仙台を拠点とするプラスチック(ポリスチレン)の完全循環を目指しています。

「ケミ・リサSENDAI」が行われるユアテックスタジアム仙台を取材!

 では実際に、試合が行われているスタジアムで「ケミ・リサSENDAI」はどのように取組まれているのでしょうか。8月10日(日)にユアテックスタジアム仙台で行われた徳島ヴォルティス戦での「ケミ・リサSENDAI」の様子を取材しました。

 当日は、試合前から雨が降るあいにくの天候。それでも多くのサポーターがスタジアムに詰めかけ、選手たちに熱い声援を送っていました。

 スタジアムでは試合前から会場内12ヶ所の売店でスタジアムグルメ等が販売され、サポーターはそれぞれに飲食を楽しんでいました。使用済の容器は、サポーターの手によって7ヶ所に設置された回収ステーションに持ち運ばれ、ポリスチレン専用の回収ボックスに分別して投入されます。

ポリスチレン容器専用の回収ボックス(左手前)はベガルタカラーの黄色で、ひときわ目立っていました!

ベガルタ仙台のロゴが印刷されたドリンク容器もポリスチレン製。サポーター自らが黄色の回収ボックスに投入します。

 ハーフタイム直前になると、回収ボックスが投入された容器でいっぱいになってきました。するとスタッフが各回収ステーションの中身を回収し、バックヤードに運んでいきました。

ハーフタイムを前に、スタッフが回収ボックスに投入された使用済ポリスチレン容器を回収していきました。

 減容作業について教えてくれたのは、「ケミ・リサSENDAI」に協力する東洋スチレン株式会社の金子知弘さんです。

東洋スチレン株式会社 サステナビリティ本部 本部長補佐 金子知弘さん

金子さん

 「スタジアムで集められた使用済ポリスチレン容器は、この小型減容機で溶かして塊にします。実は“ごみ”は、法律や条例によって排出された場所から勝手に移動できないきまりになっています。そこで“ごみ”を“資源”に変える術として、容器の体積を減らす“減容”を施します。これによって、使用済ポリスチレン容器を“資源”として千葉県のリサイクルプラントに送ることができるようになります。」

「ケミ・リサSENDAI」用に開発された小型減容機を用いて使用済ポリスチレン容器を減容します。
上部の投入口から容器を投入するとスクリューによって砕かれ、約200℃の熱で溶かされます。
その後、下部から減容されたポリスチレンの塊が排出されます。

ポリスチレンのコップ5~6個分が、約15~20cmの細長い塊に減容されました。

 スタッフの話によると、『ケミ・リサSENDAI』初回の6月22日に集められた使用済ポリスチレンは、約30kgとのこと。容器メーカーがその日飲食店に提供したポリスチレン容器の量に対して、減容できた量が30%ほどでした。2回目の7月5日には約40kg、提供した容器の約50%を減容することができたそうです。回収の際、ステーションに常駐するスタッフがサポーターに声がけし、ポリスチレン容器の分別をしっかり行うことで回収率を上げることができました。

 減容された使用済ポリスチレンはこの後陸路で輸送され、千葉県のプラントでケミカルリサイクルの工程を経て再び使用可能なポリスチレンに戻ります。ベガルタ仙台では、ケミカルリサイクルを経たポリスチレンを再びスタジアムグルメ容器としての使用を検討するなど、資源の完全循環に向けて取組を続けています。

ベガルタ仙台が考える「ケミ・リサSENDAI」の今後の展望

 ベガルタ仙台では、ケミカルリサイクルを経たポリスチレンを食品容器に戻すテストケースとして、「ケミ・リサSENDAI」で回収したポリスチレンを使用して防災ホイッスルを作成しました。これは9月のホーム戦で、リサイクルに関するアンケートに回答いただいたサポーターなどに配布される予定です。

「スタジアムで出た“ごみ”が“資源”として循環され、地域の子どもたちの防災アイテムとして戻ってくるってストーリーが、
自分なりに凄く気に入っています」と福田さん。

 福田さんは、これまでの「ケミ・リサSENDAI」の実施に大きな手応えを感じているといいます。

福田さん

 「3回の実施を通して良かった点は、思ったより周囲への浸透が早かったなという点です。環境問題という少し難しいテーマなので全体的なインプットってもう少し時間がかかると予想していました。ですので我々も伝え方として『マジメな事をマジメに』ではなく『マジメな事を面白おかしく』を合言葉に皆さんが楽しく学べて簡単に参加できる仕組づくりに力を注ぎました。その結果、協力いただいている飲食売店さんやサポーターの皆さんは我々が想像していた以上に呑み込みが早く、“新しくスタートしたリサイクルプロジェクト”の理解はほぼ達成できたのではと思っています。」

 「また先で述べた他スポーツ団体への横展開に関しても、これまでJクラブチームや、行政、他スポーツ団体、イベント関連会社の方がスタジアムに視察に来られていますし、市内の他イベントや他スポーツ団体でも“ケミ・リサ”の実施が決まり、ひとまずファーストペンギンとしての役割は果たせたかなと感じております。今後もプロジェクトメンバーと連携し、情報発信、アップデートとデータ分析を行い、他のイベントでも導入できるよう、マニュアル作成などを行っていきます。」

 早くも「ケミ・リサSENDAI」の横展開に向けて動きがみられたようです!今後、さまざまなイベント会場等でケミカルリサイクルが実施されるかもしれませんね。

ユアスタでやってみよう!使用済ポリスチレン容器の分け方・出し方

 ユアテックスタジアム仙台に観戦に行った際は、ぜひ「ケミ・リサSENDAI」に参加してみましょう!

 やり方は簡単です。まず、スタジアム内で購入して食べたり飲んだりした後の使用済容器が、ポリスチレン製であることを確認します。見分け方は、容器の裏側などに「プラ」「PS」のマークが付いているかどうか。もし見分けるのが難しい場合は、回収ステーションに常駐するスタッフに聞いて確認してみましょう。

容器の裏側にある「プラ」「PS」マークでポリスチレン製であることを確認してから回収ボックスに投入しましょう。

 ポリスチレン容器であることが確認できたら、回収ステーションのポリスチレン専用回収ボックスに投入します。その際の注意点は、汚れがひどいものは軽く拭い取ってから投入すること。カレーライスなどを盛り付ける一部の容器には、表面の薄いフィルムを剥がせるものがあります。その場合は汚れた表面のフィルムとポリスチレン容器を分け、ポリスチレン容器だけを黄色の回収ボックスに投入しましょう。

 ベガルタ仙台とサポーターが一緒に取組むリサイクルで、共に「ケミ・リサSENDAI」を盛り上げていきましょう!!